美容師は「シャンプーをする機会が多い」「立ちっぱなし」「長時間ハサミを使う」など身体に負担のかかる動作が多い職業です。
そのため、働いているうちに手荒れや腰痛、腱鞘炎などの“職業病”に悩まされる方も少なくありません。
美容師として仕事をする以上避けては通れないものの、放置して長く働いていると慢性的な不調につながり、重症化してしまうことも。
最初はほんの少しの違和感だったものが治療に長い時間がかかってしまうことになり、最悪の場合は美容師を辞めざるを得なくなる可能性もあります。
症状が悪化しないように、日頃の対策と早めのケアが必要です。
本記事では、美容師がなりやすい職業病の原因と対処法、労災認定の可否について解説します。
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美容師によくある職業病①手荒れ
手荒れは、美容師の中で最も多いとされる職業病です。
手がカサカサと乾燥するだけでなく、ひび割れや湿疹、水疱、ただれや赤みなどを引き起こすことも。
手のかゆみや痛みに悩まされることになります。
手荒れは一度発症してしまうと完治しにくいと言われています。
症状が進行して皮膚がただれてしまうと、業務に支障をきたしてしまうでしょう。
まずは、手が荒れてしまう原因と発症を防ぐ方法を解説します。
美容室で手荒れする理由
美容師の手荒れの原因は、主に「シャンプー(お湯)」「薬剤」「ドライヤー」の3点です。
日々のサロンワークを繰り返すことで、手の皮膚から水分・油分が不足して乾燥し、徐々に悪化していきます。
シャンプー
美容師が手荒れを発症するタイミングとして多いのが、入社3ヶ月未満。
これは、アシスタント期間に最もシャンプーの施術機会が多くなるからだと考えられます。
1日に何度もお客様の髪を洗っていると、お湯に触れることでお肌を守る役割(バリア機能)を担っている「皮脂膜」がはがれてしまい、外部からの刺激に弱い状態に。
特にお湯の温度が高いほど、皮脂膜が取れやすくなります。
バリア機能が低下した皮膚に、シャンプー・トリートメント・スタイリング剤などが刺激を与え、手荒れにつながってしまうのです。
また水仕事に加え、付いた薬剤を洗い流すなど手を洗う機会も多いため、皮膚の水分保持量が減って乾燥しがちになります。
薬剤
カラー剤やパーマ液といった薬剤は、お肌にとって刺激が強いものです。
ただでさえシャンプーや手洗いで抵抗力が弱くなった肌に化学物質が浸透し、手荒れを悪化させてしまいます。
人によっては特定の物質に反応してアレルギー症状を引き起こしたり、ひび割れたところから薬剤が染み込んで痛みを感じたりすることも……。
手に薬剤が付着するのを防ぐためにゴム手袋を装着している方もいるかと思いますが、手袋から薬剤が染み出してしまうことや、手袋を着脱するときに薬剤に触れてしまうこともあるため注意が必要です。
ドライヤー
ドライヤーの熱風が手に当たると、肌を乾燥させてしまいます。
ドライヤー単体で手荒れを引き起こす心配は少ないですが、乾燥した手でシャンプーをしたり、薬剤が付着したりすることで、手荒れにつながる場合があります。
手荒れの予防&ケア方法
手荒れを放置して悪化してしまうと、皮膚に細菌が入って「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」など別の疾患や感染症を引き起こす可能性もあります。
次でご紹介する対策や規則正しい生活を取り入れて、手荒れを予防しましょう。
なお、ハンドケアを行っていても手荒れが改善しない場合や悪化した場合は、早めに医療機関に相談することをおすすめします。
手をしっかり洗う
シャンプー・トリートメントやスタイリング剤、カラー剤やパーマ液に触れたあとは、手をしっかり洗って化学物質や刺激になる成分をきちんと落としましょう。
薬剤が少しでも残っていると皮膚に浸透し、手荒れやかゆみを引き起こしてしまいます。
水気を拭き取る
水仕事や手洗いのあとは、清潔なタオルで水気を拭き取りましょう。
手が濡れたままの状態だと、手についた水分が蒸発すると同時にお肌の水分も奪ってしまいます。
手を拭かずに作業すると手の乾燥につながるため、しっかりと拭き取ることが大切です。
ハンドクリームを塗る
手荒れがまだ悪化していない初期の段階なら、保湿ケアだけでも症状を改善できます。
シャンプーや手洗いの前後には、水気を拭き取った清潔な手にハンドクリームをこまめに塗りましょう。
お湯や水で取れた皮脂膜(=油分)のバリア機能を補えるように、油分の入った高保湿なハンドクリームやハンドオイルで肌を保護してあげてください。
ゴム手袋を着用する
刺激から皮膚を守るために、ゴム手袋をして手を保護することをおすすめします。
水・お湯や薬剤が素手に直接触れるのを防いで、手荒れのリスクを軽減できるからです。
ただし、手袋を着用した状態でシャンプーをすると髪の毛がもつれてしまったり、お湯の温度がわかりにくかったりするため、禁止しているサロンもあるでしょう。
勤務先と相談しつつ、お客様に不快感を与えないように気をつけてください。
また、肌の弱い方はゴム製の手袋でアレルギー症状を引き起こす可能性があります。
その場合はプラスチック製の手袋(ビニール手袋)に変えるなど、自分に合った素材を選ぶことが大切です。
美容師によくある職業病②腰痛
手荒れに次いで多いとされる美容師の職業病といえば、腰痛。
腰の周りに筋肉痛のような痛みを感じたり、腰から足にかけてしびれを感じたり、ぎっくり腰になったりといった症状が挙げられます。
ここでは、腰痛を引き起こす原因と腰を痛めないための対処法を解説します。
美容室で腰痛になる理由
美容師は長時間労働になりがちな職業で、かつ立ち仕事です。
また、シャンプーやカット中の姿勢も腰に大きな負担をかけてしまいます。
立ちっぱなし
美容師の仕事はお客様への施術中はもちろん、掃除や会計など基本的には立ち仕事がほとんどです。
座れる時間は休憩中だけという日もあり、立ちっぱなしによる疲労が溜まっていくでしょう。
立ち姿勢は背中・腰・お尻など広範囲の筋肉を使うので、長時間立ち続けると疲労や腰痛の原因になり得ます。
また、左右どちらかの足に重心をかけてしまっていたり、反り腰になっていたりと骨格・骨盤の歪みがある場合、腰への負担がより大きくなります。
前かがみの姿勢
前かがみの姿勢で作業を続ける時間が長いのも、腰痛の原因のひとつ。
例えば、中腰になるシャンプー中や不自然な姿勢になるカット中などが該当します。
特に、1日で何人ものお客様の髪を洗うアシスタント期間は顕著です。
無意識のうちに無理な体勢を繰り返していると、背筋が緊張状態になって血行が悪化し、腰痛を引き起こしてしまいます。
慢性的な腰痛になってしまうと、業務中だけでなく日常生活でも強い痛みを感じるようになるため注意が必要です。
足に合わない靴
お客様を美しくする職業である美容師は、仕事中のファッションに気を遣っている方も多いでしょう。
コーディネートのセンスも大切ですが、長時間履いていて疲れる靴やサイズが合わない靴を選ばないように注意が必要です。
足に合わない靴を履いていると姿勢が悪くなり、腰痛の原因になることがあります。
関連記事:【美容師の服装】ファッションに決まりはある?選び方や汚れにくくする方法、NGコーデ、節約テクなどを解説
腰痛の予防&ケア方法
美容師は腰痛になりやすい仕事ではありますが、以下で紹介する方法を試して予防を心がけましょう。
腰の痛みや骨格のゆがみを放置してしまうと、坐骨神経痛や椎間板ヘルニアになったり、神経系の病気につながったりする可能性も。
こまめなストレッチやサポーターなどを取り入れて、腰痛を慢性化させないための対策が必要です。
なお、腰痛がなかなか改善されないときは、鍼治療や形成外科の受診をおすすめします。
腰に負担がかからない動作や姿勢を意識する
人によって重心の偏りや姿勢の歪みはそれぞれ異なります。
腰に負担がかからない正しい立ち姿勢になっているかどうか、同僚や家族にチェックしてもらいましょう。
頭から腰にかけて背骨がゆるやかなS字を描いている姿勢だと筋肉への負担が少なく、長時間立ちっぱなしでも腰が痛くなりにくいです。
また、腰に負担がかかる動作を減らすことも腰痛予防のポイント。
例えば重い荷物を持ち上げるときは、前屈みになるのではなく、ひざを曲げてしゃがんでから足の力を使って持ち上げるとよいでしょう。
ストレッチする
凝り固まった筋肉をほぐし、血行を改善するストレッチも腰痛予防に効果的です。
仕事の休憩中に腰や体全体をグーっと伸ばしたり、体が温まって血行が良くなっているお風呂上がりにストレッチをしたりと、日常に取り入れてみましょう。
また、腰のストレッチだけでなく定期的な運動も欠かせません。
運動不足で筋力が低下すると、腰痛が起きやすい身体になってしまいます。
忙しくて運動する時間をなかなか取れないという方は、エレベーターではなく階段を使う、ひと駅前で降りて歩くといった“ながら運動”を取り入れてみてください。
サポーターやコルセットをつける
サポーターやコルセットといった腰痛を緩和する道具を使用するのも手です。
腰を固定して支えてあげることで、腰の痛みや違和感を抑えられます。
洋服の下に装着すれば仕事中でも目立たずに使用できますが、動作が制限されるのが気になる方は、業務後や休日だけでも使用することで腰の負担を軽減しましょう。
美容師によくある職業病③腱鞘炎
美容師の中には、腱鞘炎(けんしょうえん)に悩まされている方も。
腱鞘炎とは、手首や指の使いすぎによって炎症が起こり、手のひらや指の付け根に痛みや腫れを生じる症状です。
美容室で腱鞘炎になる理由
美容師が行う業務の中で、腱鞘炎につながると考えられる動作は次のとおりです。
- シザーの開閉
シザーは親指だけを動かして使う構造なので、一般的なハサミと比べて手首に負担がかかりやすいです。
また、開閉する際に力を入れすぎると腱鞘炎のリスクが高まります。 - シャンプー
- パーマのロッドを巻く作業
これらの同じ動作を長時間続けることによって、腱鞘炎につながる可能性があります。
腱鞘炎の予防&ケア方法
腱鞘炎は重症化すると、手術が必要になるケースも。
手や腕の使い方を変えたり、仕事以外はできるだけ手を休めたりして、手首や指への負担がかからないように気をつけましょう。
腱鞘炎の予防として有効なのが、サポーターやテーピングです。
関節を固定することで負担を軽減します。
営業中に着用できない場合は、練習中やプライベートの時間だけでも装着してみてください。
ただし、長時間の圧迫は血行不良になる恐れがあるため、就寝時の着用はおすすめしません。
その他、鍼治療や形成外科の受診、こまめなストレッチも◎
他にもあるある!美容師の職業病
美容師の三大職業病「手荒れ」「腰痛」「腱鞘炎」に加え、肩こりやむくみなど他の症状に悩まされている方も多いです。
日々仕事をしていると避けては通れないものも多いですが、適切なケアや休息を取り入れて身体を休めることを意識してください。
放置するとさまざまな病気や怪我につながるリスクもあるため、症状が気になるときはすぐに医療機関を受診しましょう。
足の疲れ・むくみ
長時間立ちっぱなしで仕事をしていると、慢性的な足のむくみや疲労感に悩まされることがあります。
同じ体勢が続くことで水分が足のほうに溜まるのが原因です。
つま先立ちをしてみたり、足のストレッチを取り入れて、身体の巡りが滞らないように気をつけましょう。
肩こりや腕のしびれ
美容師は仕事中、常に腕を上げて細かく動かしています。
ドライヤーを当てながらブラシで髪をとかす、シザーとコームを同時に使ってカットする……など両手を酷使しているため、首・肩・腕の筋肉や関節が凝り固まってしまいがち。
特に、大切なお客様に直接触れる仕事なので、そのぶん集中・緊張していつも以上に力が入ってしまっていることもよくあります。
毎日営業終了後は腕がしびれ、肩や首周りがカチコチになっている人も多いはずです。
筋肉の疲労を軽減して、血液の循環を改善できるように、
- 休憩時間に腕を回す
- 首や肩を伸ばすストレッチを取り入れる
- 少しでも時間があれば腕を下げる
- 自分に合う高さの枕を使う
などの工夫を取り入れて、身体を回復させましょう。
膀胱炎
繁忙期などお客様の多い時期はなかなか休憩する時間が取れず、トイレにすら行けないほど忙しいときもあるかもしれません。
しかし、尿意を我慢し続けると膀胱に細菌が入り込んで炎症が起きる「膀胱炎(ぼうこうえん)」になってしまうケースも。
特に女性は膀胱炎になりやすいと言われています。
膀胱炎は悪化すると、命にかかわる腎盂腎炎(じんうじんえん)という病気にまで進行する可能性があるため、放置は絶対NG。
トイレに行きたいときは我慢せず、スタッフ同士で協力し合いながら休憩時間を確保しましょう。
やけど
ヘアアイロンや熱風が出るドライヤーによってやけどする場合もあります。
温度の高い道具を使用する際には細心の注意を払い、万が一やけどしてしまったときはすぐに流水で冷やしてください。
胃痛・胃もたれ
予約が詰まっている日は休憩時間が短くなってしまいがち。
「ご飯はちょっとした空き時間に急いで食べている」という方も多いのではないでしょうか。
よく噛まないで早食いしてしまうと、胃に負担がかかります。
食事は「ゆっくり、よく噛んで、腹八分目」を心がけましょう。
まとめ
今回の記事では、多くの美容師が悩まされている“職業病”について解説しました。
美容師の仕事には手荒れや腰痛などの悩みがつきものです。
症状の重さによっては美容師を辞めなければならないほど、深刻な問題になってしまうことも。
よくある職業病の原因と対処法を知っておくことで負担を軽減でき、症状が出てしまっても早めに対処することができます。
何をしても改善されない場合は、転職して働くサロンを変えるのもアリです。
サロンによっては手袋着用を義務付けていたり、肌にやさしい薬剤を導入していたり、カット時には腰に負担がかからないスツールを使っていたりするところもあります。
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