いくつかのサロンでは「似合わせカット」というメニューが提供されています。
お客様がしたいヘアスタイルの要望をそのまま表現するだけでなく、顔・頭の形や髪質からライフスタイルまで幅広い要素を総合的に考慮して、似合う髪型を作り上げる施術です。
SNS上には「似合わせプロ」「似合わせショート」などのキャッチーなワードがひとり歩きしており、「似合わせカットをオーダーすれば理想の髪型が手に入る」と期待しているお客様は少なくありません。
しかし、似合わせカットとは名ばかりで、技術力やヒアリング力が追いついていないケースも見受けられます。
本記事では美容師さん向けに、似合わせカットで考慮すべきポイントや上手な提案方法、特徴別のおすすめカット方法などを解説します。
「似合わせカットって結局何なの?」と疑問に思っている美容師さんや、似合わせカットで顧客満足度を高めたいと思っている方はぜひ最後までご覧ください。
「似合わせカット」ってどんな施術?
似合わせカットとは、お客様に似合うヘアスタイルを作るためのカット方法のこと。
ヘアスタイルはひとりひとり異なる骨格や髪質、雰囲気やライフスタイルなどが複合的に影響して出来上がるものです。
似合わせカットでは単にオーダー通りにカットするだけでなく、個人差のある上記のような特徴・個性をもとに総合的に判断し、そのお客様に似合うカット方法を提案します。
お客様のなかには理想のヘアスタイルを調べて来店してくださる方もいます。
しかし、自分の好きな髪型が、必ずしも似合う髪型であるとは限りません。
「自分に似合う髪型が分からない」「好きなスタイルにしても何だかしっくりこない」と悩んでいるお客様に対し、希望を考慮しつつプロ目線でより似合う髪型を提案する方法が「似合わせカット」なのです。
通常のカットとの違い
似合わせカットと通常のカットの違いは、ほとんどの場合ネーミングだけです。
通常のカットメニューでもお客様に合わせた施術を行う美容室が多いですが、「似合わせ」と名付けることで誰にでも伝わりやすいメニュー名にしています。
ネーミングにこだわりのないサロンであれば「カット」、デザインにこだわっているサロンは「デザインカット」という風に表記名が異なります。
同じサロンに「カット」「似合わせカット」と名称の異なる2つのメニューがある場合は、
- 人気のスタイリストが担当する
- トリートメントなどのオプションメニューがセットになっている
- 奇抜なカットやアシンメトリーカットに対応している
など、「似合わせカット」の内容が通常のカットと違うケースもあります。
(この場合、サロンのホームページに具体的な内容が載っているはずです。)
上手な「似合わせカット」の5つのポイント
美容師がお客様ひとりひとりの特徴を観察・診断してカットを行います。
美容師のスキルや深い知識、豊富な経験が求められる手法です。
ここでは、ヘアスタイルを決定するときの判断軸になる5つの項目をご紹介します。
1.顔・頭の形やバランス
まずは、お客様の顔の形や頭の形をチェックします。
<顔の形>
- 卵型
- 丸顔
- 面長
- 逆三角形
- ベース型 など
<頭の形>
- ハチの張り具合(頭の上部とサイドで最も出っ張っている部分)
- 後頭部の角度、絶壁具合
- 左右の対称性、歪み など
上記にはそれぞれ特徴と似合う髪型があり、顔・頭の形に合うように修正しながらカットします。
また、形に合わせると同時に、縦と横のバランスも要チェック。
髪のシルエットは「縦:横=3:2」のやや縦長のバランスが理想であると言われています。
縦横比も意識しつつ、総合的に考慮して似合う髪型を作り上げることが大切です。
2.髪質
次に髪質をチェックします。
- クセの度合い(直毛、クセ毛、天然パーマ)
- 毛の柔らかさ・硬さ
- 毛の細さ・太さ
- 量の多さ・少なさ
- 生え際の形
- ダメージの度合い
お客様はひとりひとり髪質が違い、髪質によって悩みや仕上がりも異なります。
お客様が希望する髪型・似合う髪型・悩みをカバーできる髪型、このすべてのポイントを押さえた仕上がりになるようなカットが理想です。
髪質を考慮せずにカットすると予想外の仕上がりになってしまったり、扱いが大変になってしまったりするケースもあるため、しっかりと見極めましょう。
3.髪の悩みや要望
「似合わせカット」は美容師目線で提案するものではあるものの、お客様のお悩みや要望を無視してはいけません。
当然ですが、お客様がなりたい印象や求めているイメージを考慮したヘアスタイルを提案する必要があります。
似合うヘアスタイルを作れたとしても、お客様が満足できなければ意味がないからです。
そのために、事前のカウンセリングでお客様の意見をできるだけ引き出しましょう。
理想の髪型だけでなく、「かわいい感じが好き」「クールな印象にしたい」と方向性を確認しておけば、似合わせカットを提案しやすくなります。
憧れている有名人やなりたい雰囲気の人の写真を見せてもらう方法も◎
4.トレンド
似合わせカットでは、お客様に似合う髪型にすると同時に、最新のトレンドスタイルを取り入れることも重要です。
顔・頭の形や髪質だけを意識したカットにしてしまうと、時代遅れのスタイルになったり、垢抜けない野暮ったい印象になったりする場合があります。
「似合う」と「流行にマッチしている」の両方のバランスを見ながら、型にハマらないカットを行います。
どんな髪型や系統が流行っているのか、新たな知識と技術を日々学び続けましょう。
5.ライフスタイル
似合わせカットを提供するなら、お客様の仕事やファッション、年齢といったライフスタイル・パーソナルな情報も考慮しなければなりません。
・仕事
職業によってできない髪型や扱いにくい髪型が存在します。
例えば、飲食業や医療系の仕事の場合は、まとめやすいヘアカットが求められるでしょう。
仕事上の規定や勤務スタイルを確認してください。
・ファッション
お客様が着用している洋服のテイストとヘアスタイルのテイストを一致させる必要があります。
フェミニン系のコーディネートが好きなのに、クール系の髪型に仕上げるとちぐはぐな印象になってしまうからです。
髪型だけでなく、ファッションを含めた「似合わせ」になるようにカットしましょう。
美容室に来店しているときの服装といつもの服装が違う場合もあるため、念のため服の好みや普段のテイストを聞いておくと安心です。
・年齢
年齢を重ねると、髪のボリュームや質感はもちろん、希望する髪型やライフスタイルも変化します。
例えば、「若いときはずっとロングだったけど、今は短くしてボリュームを多く見せたい」「子どもができたからお手入れに時間をかけられない」といった具合です。
年齢に合わせたニーズや生活背景を考慮しましょう。
顔の形に合わせた「似合わせカット」のコツ
似合わせカットの基本は、顔の形の特徴を押さえたヘアスタイルを作ること。
魅力をより引き出したり、逆にコンプレックスが目立たないようにしたりと、顔の形に合った提案を行いましょう。
ここでは、主な顔の形別におすすめの似合わせカットをご紹介します。
ただし、実際には顔の形(輪郭)だけでなく、パーツの位置や体型などの要素も考慮する必要があります。
顔の形だけで似合う髪型を導くことはできないので、あくまで一例として参考にしてください。
卵型さん
卵型はどんな髪型も似合いやすいスタンダードな顔の形です。
特に、輪郭がしっかり見えるヘアスタイルは卵型は魅力が際立ってよいでしょう。
丸顔さん
丸顔は顔の縦と横の長さが同じくらいで、丸みを帯びた頬が特徴です。
やわらかく若々しい印象が魅力である一方、「幼く見える」「太って見える」とコンプレックスに感じている方もいます。
丸顔の方は縦のライン(Iライン)を強調することで、スリムな印象になります。
- トップにボリュームを持たせる
- 斜め前髪やシースルーバングを作る
- 前髪やサイドバングで頬をカバーする
- 襟足にくびれを作る
また、丸顔の方はショートが似合いやすいという特徴があります。
面長さん
面長とは、顔の横幅よりも縦が長い顔の形を指します。
大人っぽさが魅力である一方、「きつい印象になる」「顔が長く・大きく見える」というコンプレックスを抱えている方も。
面長の方はひし形のシルエットになるようにサイドにボリュームを出すことで、顔の長さが目立ちにくくなり、やさしい雰囲気になります。
- 前髪を作る(おでこを出さない)
- 頬骨の高さあたりにパーマをかける
- トップのボリュームを抑える
- 顔周りやトップにレイヤーを入れる
- ストレートロングは避ける
また、ひと言で面長といってもあごが長く見える方、おでこが広い方などさまざまです。
お客様ひとりひとりの特徴を見ながら調整しましょう。
逆三角形さん
逆三角形はハチが幅広く、アゴに向かって細くなる顔の形を指します。
フェイスラインがシュッとしているのでシャープな印象である一方、「きつい印象になる」「髪型によっては頭でっかちに見える」といった悩みを抱えがちです。
逆三角形の方は面長と同様に、カールやウェーブでやわらかい印象を作ることがポイント。
- アゴの高さあたりにパーマをかける
- 長めの前髪を作る
- 前髪の幅を狭くする
ふんわりとしたエアリー感や丸みのあるシルエットがおすすめです。
ベース型さん
ベース型はハチとエラの部分が張っていて、野球のホームベースのような五角形の形が特徴です。
骨格がしっかりしており、かっこいい雰囲気が魅力である一方、「男性的な強さを感じさせる」「顔の形が平面的に見える」といったコンプレックスを抱えている方も。
ベース型の方は縦のラインと丸みのあるシルエットを作ることで、やさしいフェミニンな印象になります。
- トップとバックにボリュームを出す
- エラの部分に髪がかかるようにする
- レイヤーを入れる
髪質に合わせた「似合わせカット」のコツ
顔の形だけでなく、髪質によっても適したカット方法の傾向があります。
続いて、主な髪質と相性の良い髪型をご紹介します。
直毛さん
直毛とは髪の毛にうねりがなく、まっすぐに生えている髪質を指します。
まとまりを出しやすく落ち着いた印象が魅力である一方、「ボリュームが出にくい」「重たく見える」といった悩みを抱えている方もいます。
直毛の場合、レイヤーを入れて動きを出すのがおすすめです。
あるいは、あえて段を少なめにしたロングヘアやワンレングスのボブにすると、かっこいい雰囲気になります。
クセ毛さん
クセ毛は自然なウェーブやカールがある髪質です。
もともと持っているボリュームや動きを活かして、カーリーなショートスタイルやナチュラルボブがおすすめです。
ボリュームを抑えたいならレイヤードカットが◎
軟毛・細毛さん
髪がやわらかい方や細い方は、サラサラとした質感やエアリーなスタイルが魅力である一方、ボリュームを出しにくい傾向にあります。
そのため、根元を立ち上げるようなカットや前下がりカット、ショート〜ミディアムのレイヤーカットがおすすめです。
軽やかなフェザーカットも似合います。
硬毛・太毛さん
髪が硬い、太いなど、いわゆる剛毛と呼ばれる髪質はコシがありボリュームを出しやすい一方、扱いにくさが難点。
内側にレイヤーを入れて軽くしたり、レイヤードカットで髪の量を調整したりすることをおすすめします。
あえて重めのストレートカットで落ち着かせるパターンや、場合によってはパーマをかけてカットでカバーしきれないお悩みを補うパターンもあります。
「似合わせカット」の上手な提案方法
似合わせカットではお客様の個性や好みのテイストを押さえつつ、美容師目線で似合うと思う髪型を提案することが大切です。
では、お客様に似合う髪型を作るためにはどんなポイントを意識すればいいのでしょうか?
最後に、似合わせカットをお客様に上手く提案するコツをご紹介します。
丁寧にカウンセリングする
似合わせカットでは、いつも以上に細やかなカウンセリングが求められます。
お客様の希望を正確に汲み取るために、次のような項目を詳しくヒアリングしましょう。
- 今の髪型で気になるところ、悩んでいること
- なりたい理想の女性像や雰囲気
- 好みのテイストやキャラクター
- 好みじゃない髪型や雰囲気
- その日の気分
- これまでにした髪型とその感想 など
お客様自身は自分に似合う髪型が分からないケースがほとんどです。
あるいは、今のスタイルも似合っているけど、別の新しい「似合う」を求めている方もいます。
カウンセリングでできるだけ多くの情報(要望)を引き出すことで、似合うスタイルと好みのスタイルの折衷案を提案しやすくなりますよ。
関連記事:美容師向けカウンセリングマニュアル!接客の手順や伝え方のポイントなどを解説
理由や複数案を伝える
お客様のオーダーに美容師の判断をプラスして提供する似合わせカットでは、伝え方が不十分だと仕上がりに不満が残ってしまうことがあります。
これは、美容師が考える「似合わせ」とお客様が考える「似合わせ」の感覚にズレが発生したことで起こるものです。
ただ「この髪型にしましょう」と伝えるだけでなく、そのカットが必要な理由や似合うと考える理由を丁寧に伝えましょう。
美容師側の一方的な押し付けはNGです。
また、お客様のオーダーどおりのカットだと似合わない仕上がりになりそうな場合は、代案をいくつか提案し、お客様に納得してもらったうえで選択してもらいましょう。
複数の提案を行うことで、安心感や信頼度のアップにつながります。
まとめ
さまざまな要素を考慮して作り上げる「似合わせカット」は、美容師の技術力とコミュニケーションスキルが必要になる施術です。
お客様の要望やお悩みに寄り添いつつも、骨格・髪の特徴や全体のバランスにも合うスタイリング提案が求められています。
難易度は高いものの、似合う髪型を提供できれば顧客満足度が高まり、また自身のスキルアップにもつながります。
プロとしての視点や知識を取り入れながら、お客様に気に入ってもらえるような理想のヘアスタイルを作り上げましょう。
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